第4章 同級生
閉まった扉の前で家入は立ち止まる。
棘もまた足を止めた。
やはり彼女も、唯を長くひとりにはしておけないと判断している。
「さっき伝えたが、三須は不問だ。何の咎もない」
一瞬伏せた家入は、小さく息を吐いて棘を見る。
「その意味が、分かるな?」
棘はそれに頷いて応えた。
「しゃけ」
ーー何の咎もない。
罰がなければ罪も存在しない。
それはつまり、今日にでもまた、三須は何の問題もなく此処に来られると言う事実。
「今はまだ行方知れずだが。そんな“個人の問題事”は上には関係ないだろう」
家入は今の状況をただ正確に伝える。
「普段から人手も足りない界隈だ。いずれ…否、必ず近い内に、任務で高専にも顔を出すだろう。それは風音も同じだ。発情期〈ヒート〉が終わればまた、すぐに任務に着く事になる」
棘は静かにそれを聞いた。
眉間に皺を寄せて、不快感を隠すことが出来ない。
「相手が、どう出るつもりなのかがわからない。ただ、風音をまだ三須に合わせたくはないと…、私は思っている」
「高菜」
それに同意して頷く。
「医者として言うが、今は風音に無理をさせたくはない。風音の気持ちが落ち着いて、自分の今後を考える事が出来るくらいになるまでは…、同級生として少し、気に掛けてやって欲しい」
まぁ、と付け足す家入は、微かに目を細めて笑う。
「勝手に付き添ってたお前たちに、そんな忠告はいらないか」
家入は僅かにその目を伏せた。
「とりあえず、ここには必ず誰かがいるから、安心しろ。でも風音も目が覚めたばっかりで不安だろうから、もうしばらくは付き添っててやってくれ」
言われなくともそのつもりでいた。
棘は頷いて、家入を見る。
「しゃけ」
棘の答えに頷き、頼むぞ、と呟く家入はそのまま踵を返して歩き出した。