第3章 唯一の真実
頷いた家入は、横にある小さな机に体温計とペンを挟んだバインダーを共に置く。
頸にそっと触れてから軽く押して、その傷口には問題がない事だけを確認すると、唯の肩に手を添えた。
「番を解消する方法はある。番関係のαの同意、もしくはより強く濃いαの協力があれば。ただし、」
心配してくれているのは肩に置かれた温かな手から理解出来た。
医師として、家入は淡々と言葉を続ける。
「知っての通り、番関係が解消されたΩはもう、二度と番を作る事は出来ない。消えた番を求めて強くなっていく自身のフェロモンに一生苦しむ事になる」
家入は一瞬棘を見た。
唯に告げるようでいて、棘にも向けられているであろう言葉。唯はその視線に気付かない。
「どうしたいか、どうするか。酷な質問だが、決めるのは風音だ。時間を掛けて考えればいい」
はい、と唯は小さく返事を返す。
「とりあえず今回は、発情期〈ヒート〉が治まるまでここに居る事。わかったな?」
「ありがとうございます」
唯の声に、家入は大きく頷く。
「あまり、自分を責めるなよ。悪いのは風音じゃないって、みんなわかってる」
唯の肩から手を外し、家入は体温計とバインダーを取った。
家入が静かに話を聞いていた棘を見て同意を求めれば、棘はしゃけ、と頷き一言を唯に向ける。
唯も棘を見た。
視線が交われば、やっぱり目を細めて柔らかく笑い唯を見る棘。
そんなふたりに家入は複雑な表情を見せる。
「まぁ、とりあえず。まずは発情期〈ヒート〉を抑える抑制剤だな。いくつかリストアップしておく」
言って家入は唯に背を向けた。
「ありがとうございます」
「ん。何かあったらすぐに呼ぶんだぞ。誰かしら医療班が来るから」
「はい」