第3章 唯一の真実
そのままドアに向かう家入は、棘を見た。
「狗巻、ちょっと借りるよ」
唯に言って家入は医務室のドアを開けて棘を手招いた。
棘は一度唯に目をやってから、「ツナ」と一言。すぐに戻ると言い残して家入に続きドアを潜って行った。
ぱたん、とドアが閉まった病室に、唯はひとり。
小さく溜息を吐いた。
ガランとした医務室。無機質な誰も居ない空間に急な不安が胸を締め付ける。
どうしよう…
なんて考えても。
どうしようも、出来ないけれど。
まだ熱っぽい身体をベッドに横耐えて目を閉じ、発情期〈ヒート〉の感覚に耐える。
ーー知っていた。
頸を噛まれた時点で唯はもう、二度と棘と番にはなれない。
このまま三須と番関係を続ければ、発情期〈ヒート〉は今のまま続く。
身体に合った抑制剤さえ見つかれば、苦しむ事は少ないかもしれない。
逆に番関係が解消されれば、失った番を求めてΩのフェロモンは強くなっていく。
抑制剤も効くとは限らないし、強く変化していくであろうフェロモンに合った抑制剤を毎回探すのは無理に等しい。
Ωである唯の身体は辛いし、αとのトラブルも必ず増えていく。
番関係を今すぐにでも解消したい。
でも、解消する事の方が遥かにリスクが高い事も理解している。
でも。
どちらを選んでももう、
棘と番になる事は一生ない。
それだけが今ある、ただ唯一の真実だった。