第2章 君を想う
はぁ、と盛大な溜息が聞こえた。
人間面倒くせぇな、とぼやくパンダの声。
「んじゃ、質問を変える」
棘は唯の手を握ったままだった。
唯は変わりなく眠り続ける。
パンダは静かに俯くだけの棘を見た。
「唯が、好きだったんじゃないのか?」
言われて棘は動けなくなる。
思わず唯の手をぎゅっと握った。
「…………っ」
慌てて顔を上げ明らかに動揺する棘に、真希は口の端を持ち上げて小さく笑う。
「しゃけだろ」
真希の言葉に顔に熱が昇るのを感じる。
「……ツナ…」
真希とパンダは顔を見合わせる。
「まぁ、そう言う事…なんだな」
あえて納得する風に言ったパンダに棘は顔を背けた。そのまま何も言う事が出来ない。
格式や家柄が未だに色濃く影を落とす呪術界は、そんな世界じゃない事も承知している。
術師を絶やしたい狗巻家に対して、御三家を含む術師を遺したい家柄は少なくはない。
優秀な繁殖の為の性であるΩを欲しがる家は多いと聞く。まして、唯のように優秀な呪術師のΩは、引く手数多だったはずだ。
どれが彼女の幸せかはわからない。
でも。
好き、だとか。
そんな感情は、少なくとも自分にはあまりが関係ない。
狗巻家にはもう、優秀なΩは必要ないのだから。
「唯が棘をどう思ってるかは…まぁ実際分かんねぇけど」
真希が付け足すように続ける。
「唯はさ。待ってたんじゃねぇの?自分がどうこうより、…棘が前向きになるのを」