第2章 君を想う
番とか。
好き、とか。
まだよくわからなかったけれど。
そんな自分の気持ちを隠してしまいたかった。
「狗巻くん…?あ、同級生だし棘くんでいいかな?」
入学して間もなく。言葉が通じた気はしなかったけれど、唯は入学式から変わらず棘に話しかけて来た。
変わらない笑顔。
「ツナ」
「…どっちでもいいってこと?」
「明太子ー」
「明太子ーわかんない。じゃあ、棘くんって呼ぶね」
「おか…っ?、……しゃけ」
彼女の少し細くなる緩やかな目元。
ほんの少し頬を染めて笑う柔らかな笑顔。
「棘くんは、よくわからないけど優しい人なんだね」
「おかかー」
入学してしばらく、気が付けば唯を目で追うようになっていた。
番なんて、本気でどうでもいいと思っていたし、その方が楽だったから。
それなのに。
「私は、そんな優しい棘くんが、好きだよ」
いつだったか。
笑った唯は、当たり前のようにそう告げた。
それは、どんな感情の“好き”なのか。
気付かないフリをして。
「すじこ」
自分の気持ちに蓋をして、棘は“好き”を肯定も否定もしなかった。
彼女もそれ以上何も言わなかった。
本当に俺は、優しくなんかない。
人を傷付けることしか出来ない自分は…、たぶん唯の隣にずっといる事は出来ない。
優しいのはたぶん、そんな君自身なんだ。