第2章 君を想う
ーーねぇ、
今から私に付き合ってくれないかな?
人好きのする笑顔で笑う見知った男性。
掌を押しつけられて、振り向けば馬乗りになって唯を見下ろしていた。
シーツをぎゅっと掴んで、動けなくて。
瞬間、頸に感じる鋭い痛み。
「…………っ?!」
曖昧なその記憶が断片的に蘇る。
背筋がぞくりと泡立って、悪寒が走った。
「…わた、し……」
震える指先で触れた首元には、いつもしているチョーカーがなかった。
どくどくと、嫌な音が胸に響く。
「……つがい…に……」
それ以上は言葉にならなくて。
口を噤んで俯けば、いつの間に視界が揺れていた。ぐっと奥歯を噛むけれど、涙は止まる事はなく溢れていく。
辿った記憶で全てを理解するのに、そんなに時間は必要なかった。
ーー私は三須先輩と番になったんだ。
胸に、重たいものが落ちたように。
何かがつっかえて苦しい。
ーーどうしよう。
なんで?
どうしよう、どうしたら…。
そんな言葉しか浮かばなくて。頭が真っ白になる。
何も考える事が出来なかった。
ただ不安で不安で。
ぱたぱたと涙が雫となって唯の手元に落ちて行く。
濡れた手で。
まだ溢れる涙を拭おうと、持ち上げたその右手がぎゅっと握られた。ふわりと、温かいぬくもり。
涙で霞む視界が、白く細い指先を捉えた。男性特有のゴツゴツとした骨張った大きな掌が唯の右手を包み込む。
ずっと、そこにあった温もり。