第2章 君を想う
side toge **
ふわりと香る、彼女の匂い。
Ωのフェロモンの甘い香りとは違う、唯の優しい匂い。
棘は瞳を固く閉じたまま、呪言でしばらくは目を覚さないであろう唯の髪にそっと触れた。
ひとり知らない場所に連れ込まれて。
自分よりも大きな男の身体に抵抗も出来ず。
怖かっただろう。
痛かっただろう。
きっと、身体も。心も。
苦しかっただろう。
きつく抱きしめた唯の身体は熱を持ったように熱い。
苦しそうに肩を上下に動かして、汗でしっとりと濡れたその白い頸には、赤く生々しい噛み跡が残されていた。
部屋に居たのは見覚えのある男だった。
3学年上の昨年卒業したばかりの先輩。名前は確か…三須。棘も何度か任務で一緒になった事があった。
優しい先輩だったと、記憶していたが…。
棘は唯を抱きかかえ、パンダと真希と合流してすぐに補助監督の待つ車に乗り込んだ。おそらく発情〈ヒート〉の続く彼女を家入さんの元に運ぶ。
そこに、三須の姿はなかった。