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施春姫

第2章 変革




「別に良いけど…何か用ですか?」
「え?キミに大事な話をしようと思って」


あれから数日後、待ちに待った休暇を優菜は楽しんでいた。
普段より早く起床し、数着しかない外行きの服に袖を通し念入りに化粧を施す。

美容室の予約時間より大分早く街へ繰り出した優菜はおしゃれなカフェのテラスで、
カフェオレとエッグベネディクトという映える朝食を取っていたのだが。


「もしかして付けてたんですか?わざわざ休暇狙って、しかも外で仕事の話するとか萎える」
「まぁまぁ。だってキミ仕事終わるとすぐ部屋に引っ込んじゃうじゃない?業務前も基本ギリギリまで降りて来ないし」


ははは、と笑うこの男はheavenのオーナー。
長身にビシッとスーツを着こなし、当たり前のように向かいの席に腰掛けブラックコーヒーに口をつけた。


「で?なに」
「本当にキミ、接客中以外は愛想ないよね!折角の綺麗な顔が台無しだよ」


ニコリと笑みを崩さないオーナーとあからさまに邪険に扱う優菜。
毛嫌いしているように見えて、実は優菜はオーナーに感謝している。
前に少し述べたが、優菜が両親に最初に売られた先はheavenと比べるまでもない悲惨な場所だった。

性風俗という共通点はありはすれど、とにかく地獄のような日々。
学校へ通っていた普通の女子中学生が急にそんな目に合う事を想像すれば、その壮絶さは計り知れない。
奴隷のように使役される日々を救ってくれたのは、紛れもなくこのオーナーであった。

なぜそうなったのか、詳細は彼女も知らないが


「僕キミを買っちゃったよ、ハハハ!今日から僕の店で働いておくれ」


今と変わらぬ胡散臭い笑みを向けられ、連れて行かれた先では透明性のある給与形態と返済の説明を受け
暖かい食事に自分の部屋まで与えられた優菜はその晩、一人で泣いた。

ほっとしての涙なのか
果てしない3億という金額を返済するまで身体を売り続ける事に絶望しての涙なのか
ただ、泣いたのだった。

地獄から掬い上げてくれたこの男への感謝を、優菜は恐らく一生忘れないだろう。


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