第2章 変革
「いやぁ、それにしても化けたよね。前も可愛かったよ!可愛かったけどさぁ、ここまでお綺麗になるとは思ってなかった」
「それはどうも」
結論を急かしても無駄と悟った優菜は適当に返事を返しつつ、イングリッシュマフィンにベーコンとポーチドエッグを乗せ口へと運ぶ。
店の食事は嫌いではなくとも、好きな物を選んで食べられる事が優菜はただ嬉かった。
「売上もさ、ぶっちぎりじゃん?僕店始めてもう10年?になるけどあんな売上連日叩き出す子なんて見たことないよ」
「ふーん」
時折視線をオーナーへ向けつつも、気のない返事が続く。
「この調子で行けばあと2年もしない内に完済しそうなんだけどさ、キミその後どうしたいかとか考えてるの?」
「何も」
焼いたアスパラにオランデーズソースを絡め口へと運ぶ優菜は、残額が減ってきている事もその目処も知りながら
敢えてその後を考える事を放棄していた。
「真面目に、さ。じゃあ2年後、キミは19歳だね。もううちで働かなくても良いし、十分まだ若い。それからでもやりたい事を始められるんじゃないかい?」
「どしたんですか。本当に真面目な展開で…なんか薄気味悪い」
悪態をついてしまうのは長年の癖なのか…。
想像もしていなかった"自由の身"。
選べるのならば何をしたいのだろうと、そんな夢のような疑問を抱く事は無駄だとずっと彼女は諦めて来た。
「もし…もしだけど完済後もうちで働くとすればだよ?そうすれば収入に応じた税金も払わなきゃいけないし、何より一生続けられる仕事では正直ないんだよね」
35歳を過ぎると、客から取る料金もキャストに払う時給も減少する上に個人差はあるものの40歳で定年退職と
オーナーは悲しそうに告げた。
今収入をほぼそのまま使えているのは、返済中の買われた子の申告はちょろまかしていると
オーナーはあっさり脱税を認めた。
「だってさ、身に覚えない借金返してるのに税金まで払わされるのは可哀想過ぎるじゃん?僕から皆へののささやかな愛情だよ。完済後は普通に申告して貰うけどね」
「よくわかんないけどヤバそうな事してるのはわかった」
カフェオレのカップに口をつけた優菜は、突然切り出されたこの手の話題に戸惑っていた。