第2章 変革
「キミの稼ぎだと半分は税金で持ってかれるかな、このまま行けば」
「そんなに!?」
時給制であっても売上折半制であっても、返済のないキャストには確定申告が義務付けられる。
知識もなく対策もせずそのまま申告すれば、累進課税により所得の多い者は税金を多く支払わねばならないと
そんな事をオーナーはへらへらと述べる。
「まぁ正直、完済後急に店辞めようとしても出来る事って限られるんだよね。ぶっちゃけるとさ、キミの頭って世の中で生きていく為の知識とかほぼ空っぽじゃない」
「…事実なんだろうけど凄い腹立つ」
にこやかな笑顔で受け答えながらも、優菜が内心ブチ切れている事はわかる人にはわかった。
この場にはお互い以外の人物等存在しないのだが。
「40までに一生分稼ぐとしてもよ?今の日本人女性の平均寿命って90歳近くてさ、その後50年近くの生活費をあと20年で稼げそう?」
「…」
完済後何をしたいかと同じレベルで、優菜の頭はそのシミュレーションをする事を拒んだ。
人間わからない事を考えるには勇気が要る。
途方もなくわからな過ぎた時のそれは、更に膨大だ。
「ハハハ!面白い顔してるね。…だから今言ってるんだよ。今までのように完済まで最速で返済し続けなくても良い訳だし、そうすれば空いた時間や浮いたお金で得られる事もある」
「?…意味がよく、わかんないけど」
カフェオレを飲み干しエッグベネディクトも食べ終えた優菜は
だから結論を話せ、答えを求めて来るな
とでも言うようにオーナーを渋い顔で睨み付けた。
「例えばだけど学校とか?定時制の高校通って大学受験してみたり、ニュースや新聞見るようにしてみたり?社会勉強でアルバイトしてみるのも良いかもね。あとは学校通わず独学で勉強して役に立つ資格取るとか」
「あぁ、へぇ…ふーん、そう」
概要だけ話されているだろうそれですらも、暗号のようで頭が痛む。
げんなりした顔で微妙な返事をする優菜に、オーナーもコーヒーを飲み干し席を立った。
「ここは折角の休暇に耳に痛い話しちゃったお詫びに僕が払っておこう。ただ…今と2年後では選べる道の数が笑える程変わっちゃうから、頭悪くてしんどいだろうけどちゃんと考えるんだよ!」
じゃあね、と伝票を持ったオーナーは店の中へと消えて行った。