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施春姫

第1章 日常




10:45
優菜は目覚ましに起こされ起床する。
口をゆすぎ顔を洗い、シートパックを張ったまま枕カバーとシーツを取り替える。
使用済みのリネンと洗った昨晩の夕食食器を持って向かうのは階下にある食堂。

午前11時、朝食の提供開始と共に一番乗りでそれを受け取るのが彼女の日課だ。
部屋に持ち帰った食事は、またしてもYouTubeを見ながら一人で食べる。

heavenの朝食はボリュームもあり、豪華だ。
唯一の食事らしい食事かもしれない。

十六穀米のご飯に、乾物から出汁をとった野菜たっぷりの味噌汁。
程よい塩気の焼き鮭に明太子、納豆、卵焼き、青菜のお浸しに金平…
9枡に区切られた皿には日替わりで様々なおかずが盛り付けられた。
それとは別皿に、たっぷりのフルーツとパックの牛乳。
洋食の時も果物と牛乳は毎回付いた。

パックを外し乳液で肌を整え、パックの残りの美容成分を体に塗りたくってから朝食にありつくのも日々のルーチンワーク。


変わらぬ日々を過ごしながら、優菜が待ち望むのは次の休暇であった。
出血で客を取れないその期間だけが、買われた身である彼女のささやかな楽しみ。

初日には美容室と整体、最終日にはエステとネイルサロンの予約を既に入れており
あと数日で訪れる休暇を優菜は楽しみにしていた。

カレンダーで残りの出勤を確認した後は、鮭でご飯を頬張りながらスマホで自分の今日の予約の確認だ。
起きる時間にはスタッフの手により最新のものに更新されたそれは、今日もビッシリと予約が埋まっていた。

幸か不幸か、今日は全て一人客。
見たところ癖の強い客やリクエストは見あたらない。

昨日までの給与計算がのった欄と、前日の給与、今日の概算のそれを眺めれば昨日が突出して高い。
殆どが伊藤御一行の団体料金だろう。

今日の概算に表示された26万円の数字と、その上に表示された33万5000円。
ちょっとしたサラリーマンのひと月分の給与を1日で稼ぐ優菜にとって、この金額はどう感じるものなのだろう。

彼女は休日に使う金額以外の殆どを、自分の代金3億円の返済に当てていた。
14歳で始めたこの仕事も、今やもう3年目。
完済は一生かかっても絶望的に思えたそれも、既に半分以上がなくなっていた。


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