第1章 日常
我が道を行く大宮を見送り、その後二名の客をもてなした優菜は
荷物を纏めすぐさま接客部屋を後にする。
向かう先はheaven最上階のキャスト達の個室。
接客部屋に簡易キッチンが付き、部屋面積自体は縮小させた作りの簡素な部屋。
もっとゆとりある造りの居室も存在するが、ナンバーワン人気を誇る優菜はほぼ寝る為だけの部屋にそれを求めなかった。
部屋に入ると直ぐ様バスタブにお湯を張り、ターバンで前髪を上げ拭き取りクレンジングでメイクを落とす。
冷蔵庫を覗けば、例のスムージーとチキンのサラダ、健康的に違いない色をしたポタージュスープといくつかの錠剤が乗った小皿がいつも通りトレーに納められていた。
それとお茶を引っ張り出した優菜はタブレットのあるデスクでお湯が溜まるまでの時間で夕食を摂る。
夕食のお供はYouTubeの美容チャンネルだ。
heavenで住み込みで働くキャストの食事は共通である。
時給制のキャストも、売上折半制で売れっ子のキャストも、そうでないキャストも。
ぶっ通しで客の相手をし続けた優菜にとって、この食事量では栄養が足りないだろう。
しかし体型キープと美容の為という理由以外にも、この食事内容には理由があった。
激しく体力を消耗したキャストにとって、高エネルギー高炭水化物の食事は眠気を誘ってしまう。
しっかり入浴をし、睡眠に入れるように
そんな気遣いなのか便利に使う為の口実なのか、食費の節約なのか。
色々と謎ではあるが優菜はここの食事は特に嫌いではなかった。
ムシャムシャとサラダ菜を頬張りながら、動画で紹介されている美容法に必要な物をスマホにメモする。
趣味か職業故かは定かではないものの、優菜は外見磨きが好きであった。
良く咀嚼しながら食事を終え、疲れた身体を労るようにゆっくりと入浴を済ませると
明け方4時、優菜の1日はやっと幕を降ろす。
泥にでも沈むように眠る彼女が目を覚ますのは、約7時間後。