第1章 日常
「乾かすのもお願いして大丈夫?」
「勿論です!寧ろ優菜さん以外は皆さんシャワーの度に洗髪もブローも頼まれますよ?」
自分で出来そうな時は自分でしたいじゃない、と力なく笑う優菜は
バスローブのままソファに腰掛けると業務中に軽食として配給されるスムージーに口をつけた。
野菜と果物、プロテインに食物繊維、はちみつに豆乳…
とにかく美容と健康に良さそうな物で構成されたそれの味は、良くも悪くもないとそんな感じだ。
高収入、と先ほど伝えたばかりではあるが
その殆どは彼女の手元に残らない。
優菜はこの店に買われた身であり、その金額を日々返済し続けている。
彼女は14歳の頃、借金に苦しむ両親に身売りされた。
最初の買い取り先は、それはそれは酷い場所であった。
不幸中の幸いと言うべきか、その数ヶ月後に彼女は今の店に買い替えられる。
その時オーナーに聞いた優菜の買値は3億円。
両親はなにでこの巨額の借金を作ったのか…
転売によって売値が上昇したのか…
オーナーが優菜を欺き、虚偽の金額をふっかけているのか…
または…それ以外か。
最初は絶望的と思われた借金も、売れっ子となった優菜ならばあと数年もかからず完済出来そうだ。
ちなみにheavenにはふた通りの給与形態があり、キャストは月毎に自由に選択可能だ。
一つは先ほど説明した、指名売上折半制。
もう一つは時給制である。
時給制を選択すると、キャストには客を取ろうと取るまいと時給5000円の給与が支払われる。
13時間の営業時間に1時間の休憩が与えられる為、日の給与は6万円だ。
指名数に応じたボーナスは付くものの、全額フルバックの折半制には指名料だけでも及ばない。
安定して指名が取れるキャストは折半制を選択し、日の浅い新人や人気のないキャストは時給制を選択する。
ちなみに
本人の希望があり、時給制のキャストが全て接客中の場合においては
折半制のキャストが一人3000円で接客する事も可能だ。
これは収益分岐点が境界の折半制キャストが苦肉の策として選択する方法ではあるが、折半制に移行した途端フリーの客との接点がほぼなくなる為
営業活動として割り切るキャストもいるとか…。
実に上手く出来た仕組みである。