第9章 残骸
「それと、これ」
アルドは片手に持った花をに手渡す。
白く小さな可憐な花には目を輝かせる。
「わ……可愛い花! ありがとうございます」
両手で包み込み、にこっと微笑んだ。
アルドはの笑顔にでれっと表情を緩める。
「これは俺の国でしか生えない花なんだ。不思議なもんでな、過酷な環境に自生していて、他の地には根付かないんだ」
「へえ……」
「んじゃ、またな。次に会えるまで、これを見て俺様の事を思ってくれ」
アルドが帰り、はいそいそと花を花瓶に生ける。
は嬉しそうに指先で花を揺らす。
「綺麗な花」
「カルファ様っ、勝手に……!」
「ん……?」
サピルーンの慌てふためく声がして、廊下に目をやる。
勢いよく扉が開いた。
立て付けの悪いドアがギーギーと前後に揺れる。
視線の先には、カルファが憮然とした顔で立っていた。
「そもそも鍵が壊れてんだよ、この部屋」
「それにしてもノックくらい! 人としてのマナーですよ!」
「猫はんな事しねーんだよ」
「貴方は猫じゃないでしょう! わたくしが猿じゃないように、祖先の動物とわたくし達は乖離しています!」
サピルーンは懸命にカルファを諌める。
はもはや突っ込む気も起こらず、ため息をついてその場からカルファの元へ向かう。
「……何の用ですか」
「んー……何だっけか。まあ覚えてないからどうでもいい用事だったんだろーなー」
「そんなレベルの用事であそこまでドアを破壊する必要ありました? よっぽど切羽詰まった人のそれでしたよ」
慣れた様子で駄弁るとカルファ。
その横で、サピルーンはの部屋を彩る小さな花を見つめていた。
「…………」