第9章 残骸
こんこんと窓がノックされる。
は自室の小さな窓を見る。
「ん」
はネアの件もあり、警戒しながら窓に近づく。
恐る恐る覗き込むと、
「よ」
アルドがにっこりと笑っていた。
は窓を開き、驚いた顔で見つめる。
「あ、アルド……さん! どうしたんですか?」
「この前は名前も聞けなかったからな……本当は正々堂々と入ってご挨拶するもんなんだろうが、ヴィークの目もあるし、あんまり大事に出来ねえんだ」
アルドは頭を掻き、あっけらかんと笑う。
ふわふわな毛から太陽の匂いがして、は知らず知らずのうちに目を細めていた。
「名前を教えて貰ってもいいかい?」
「、です。」
「ちゃんか。良いな、良い名前だ」
アルドも嬉しそうに目を細くする。
満足そうに言い、
「それじゃあ帰るよ。気持ちがはやっていきなり来ちまったが、ちゃんと会えて良かった。俺様はツイてるぜ」
はぱちぱちと瞬きし、首を傾げる。
「もう……ですか?」
「ははっ、許されるならずっと話していたいんだがな。まだ聞きたい事も山ほどあるし、俺様の事ももっと知って欲しい」
太い腕を小窓に突っ込むと、の手に触れる。
鈍く光る爪、しっかりとした肉球、間を埋める毛。
「だがこれでも忙しくてな。やりたくもない職務や会食が山積みだ」
の手を包み込むようにして上に乗っかり、ゆっくりと離れた。
「また来ていいかい?」
強烈な出会いと違ってあっさりと引くアルドの問いかけに、は徐々に警戒心を薄める。
「はい」
満面の笑みとはいかないものの、素直に頷いていた。