第8章 待て
「あッ……いや、これはだな……」
あわあわと弁解するアルドの身を包むフードの着いた襤褸布。
ヴィークの眼光が更に鋭くなる。
「その格好は変装のつもりか? 王でありながらそのようなみっともない格好で街をうろついて……ッ!?」
アルドの隣で立ち竦むに気が付くと、ヴィークの声が裏返る。
咳払いをし、
「……ンンッ! ……アルドその女性とはどういう仲だ」
アルドを睨む。
「あ、ああ! ヴィーク聞いてくれよ、俺様とこのお嬢さんは今日運命的な出会いを果たして……」
アルドは弾かれたように、ペラペラと饒舌に語り始める。
たまたま入った道具屋でとぶつかった事、そして彼女の何もかもが美しかった事、見つめ合った瞬間雷に打たれたような衝撃が走った事。
ふふんと鼻息を荒くし、ヴィークに笑顔を向けた。
「それでだな、是非我が城にー」
「……要はナンパか?」
ヴィークは惚気話を一言で断ち切る。
アルドの顔が凍りついた。
「ふざけたことを……!」
背後に燃え上がる炎が見えるような、恐ろしい気迫でアルドを睨みつける。
「アルド帰るぞッ! 貴様には教育が必要なようだ、たっぷりとお灸を据えてやらねばならぬ!」
「うおおお! ヴィーク、せめてお嬢さんの名前だけでも聞かせてくれえ!」
「ならん!」
アルドはきゅんきゅんと鳴き、喚き、必死に抵抗するもヴィークに引きずられていく。
カルファとはそんな姿をぽかんと見送り、
「何だよ、折角のチャンスだったのに。あいつと結婚すれば、貧乏も王族の仲間入りだぞ?」
「余計なお世話ですよ……わたしは、人生は自分の力で切り開きます」
興を削がれた様子でため息をついた。
「……帰るか」
カルファが小さく呟く。
「そうですね……」
嵐のような一瞬の出来ごとに疲れ果て、どちらともなく足は帰路を進んでいた。
「荷物、持つわ……」
「お願いしまーす……」