第17章 破滅
の部屋の扉が開き、
「……よお」
不機嫌そうなカルファが顔を覗かせる。
荒々しくの隣に歩み寄り、ベッドに深く腰掛けた。
手馴れた様子で煙管を取り出し、タバコをふかす。
「最近いけ好かねえ犬と気に入らねえ猫が来ただろ」
二人から事の顛末を知らされているは無表情に頷いた。
「……アルドさんは狼ですよ。ヴィークさんは豹」
「ンなことどーでもいいんだよ! くっそ、アイツらマジで気に食わねえぜ」
カルファは煙管片手にベッドにひっくり返る。
「アイツらの国に、王と従者が風俗遊びやってるって垂れ込みいれてやりてえけど……娼館の信用に関わるしな……あー、顧客の情報を流す訳にはいかねえからなあ」
はブツブツと文句を言うカルファを見つめる。
小さく口を開いた。
「……例えば……例えば、ですよ」
「ん?」
カルファは不思議そうな顔でを眺める。
「もしわたしを買い取りたいって人がいたら、わたしを手放して、くれますか」
聞き捨てならない言葉にカルファの眉間にシワが寄る。
がばっと体を起こし、
「あ?」
の顔を見詰める。
「わたしのこと、いつかここから出してくれますか……?」
の声はいつになく弱々しい。
表情も暗く、重い。
の纏う影のある雰囲気は、色気と同じ程の沈鬱さを孕んでいた。
カルファは改めての変化を認識させられ、唾を呑む。
初めて会った時の、跳ねっ返りな彼女は目の前にいない。
「……ばーか。お前、自分の人生は自分の力で切り開くとか何とか言ってたじゃねえか。頑張れよ」
素っ気なく突き放し、の変容から目を伏せる。
「そう、ですよね……」
はさして悲しんでいないのか、諦めているのか、カルファに縋ることもしない。
小さく呟いたっきり、押し黙った。
「ま、俺はそうそうお前を手放す気はねえけどな!」
カルファは沈黙を破るように言い、ベッドから勢いよく立ち上がる。
「まだまだたっぷり稼いでもらうぜ」
ドアノブを握り、振り返って口角を上げた。
俯いたの表情は見えなかった。