第14章 夢の果てまで
『そうだ、これ……』
は痩せた手で、隠し持っていた小銭と食べ物をネアに渡す。
『気をつけてね』
ぎゅっと包み込むようにネアの手を握った。
ネアの手に残る、自分と全く異なる愛しい体温。
一刻も早く逃げないといけないのに、すぐに離れたそれが名残惜しくて、もう一度握って欲しくて堪らなかった。
「逃げるみちを教えてくれた。優しい声をかけてくれた」
ネアはあの日と全く変わらぬ美しい赤色の瞳で、に言う。
『わたしは一緒に着いて行ってあげられないけど』
「……まだあのときのお礼、言えてなかった、から」
『またどこかで会えたらいいね』
記憶の中のが笑う。
ネアの心に焼き付いた彼女の笑顔は、辛い逃亡生活の心の支えとなり、幾度となく励ましてくれた。
そして、いつの間にか妄信的に縋っていた。
「おれが此処から出してあげる」
ネアはすっかり手馴れた様子でを抱き寄せ、愛おしそうに見下ろす。
背を丸め、唇に柔らかい口付けを落とした。
二叉の舌先がの唇を舐め、奥へと潜り込んでいく。
「ン……ぁ」
薄く唇を開いて受け入れれば、ネアは気を良くしたのか目を細めた。
は彼の混じりけのない言葉に、何の保証もないはずなのに、少しばかり癒されていた。
いつか誰かが自分を救い出してくれるのだろうか。
一抹の期待が胸を掠めると同時に、深い後悔を抱く。
ああ、無意識にネアの人生を変えてしまったのだな、と。
そしてまたも彼に人生を変えられたのだ。
体温が混じり合い、お互い自分だけの物だった温もりが溶けていく。
二人の境目が無くなっていくようだった。
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