第1章 姉と弟
胎がぐるりと回った。ような気がした。
腹痛とは違う。何かが蠢いて啼いているような。苦しくて仕方が無い。犬のように息を吐く。奥底から這い出てくる気持ち悪さから逃げたくて口を大きく開くが、零れるのは涎と胃液だけ。
姉ちゃん。姉ちゃんが顔を青く染めてる。何か言っているけど何も聴こえない。
息が詰まって苦しい。酸素が脳に届いていないのが不思議とわかった。視界がぐにゃりと歪んだ。姉ちゃんの顔がゆらゆら揺れてて、ガキの頃ふざけて風呂の中で目を開けた時に見たものと同じだなって思って、その時、気付いた。
ああ、俺、泣いてるんだ。
姉ちゃんも、泣いてる。
視界がどんどん歪んで、世界は傾いた。あ、俺、倒れたんだ。熱ぃ。胎が、熱ぃ。胎だけじゃない。背中も、腰も、足も、全部、熱ぃよ。灼けたアスファルトってなんでこんなに熱ぃの。
胎が痛い。痛すぎて、意識が遠のく。一面、真っ青な色が飛び込む。空が青い。空ってこんなに青かったのか。夏の虫の声が頭の中に響いてうるさい、黙ってくれ。
水。水が欲しい。姉ちゃん、水が欲しい。気持ち悪いんだ。喉が渇いたんだ。水が、水が飲みたいよ、姉ちゃん。
ああ――――――。もう――――――。