第1章 1
「、行くぞ、さっさと自分の荷物取って来い。」
紀章さんが前を歩きながら顔だけわたしに向けて言う。
「もぉ、また紀章さんは、そんな言い方して〜・・・。紀章さん、怖いんだから、自覚してくださいよ?」
「なんでそんな意地悪言うの?紘くん意地悪〜」
「意地悪言ってるのはきーくんでしょ!」
わたしは仲良くじゃれる二人の横を通り抜け、自分の荷物を取りに楽屋へ急いだ。
楽屋のドアを後ろ手に閉め、一人になると、我慢していた涙が溢れ出しそうになる。
ダメ・・・まだ泣けない。
先輩方を待たせるわけにはいかない。
「ふぅ・・・。」
わたしは大きく深呼吸をして、溢れ出しそうになった涙をもう一度閉じ込めた。
トントンと小さく胸を叩いて感情を無理やり落ち着かせ、わたしは荷物を引っ掴むと楽屋を後にした。
「おっそい!」
紀章さんがエレベーターの前で腕を組んでわたしを待ち構えていた。
「す、すいません・・・」
「紀章さん?」
慌てて謝るわたしと紀章さんを咎める下野さん。
「・・・・行くぞ。」
そんな下野さんとわたしを見比べて、何やら意味ありげに一瞬にやっと笑って、その時丁度到着したエレベーターに乗り込んだ紀章さんが早くしろとでも言いたげにクイっと顎をしゃくった。