第1章 -1-
外に出ると、「こっち」と道を案内しながら、さりげなく移動して車道側へと移る。
周囲に目を配り、私をエスコートしてくれる。
変わってない。
あの頃も自然にこう言うことができるやつだった。
強いて言うなら、あの頃よりも行動がスマートになっていることくらいだろうか。
確認するかのように私を振り返って、目が合うとちょっとはにかんで微笑むところも、人ごみの中では私を守るように私の前を歩く彼の背中も、彼を好きでたまらなかったあの頃の気持ちを嫌でも思い出させた。
「紘」
思わず、あの頃よりがっしりした背中に呼びかける。
「ん?あ、俺歩くの早い?」
私の声に立ち止まり、振り返って心配そうに私を見る。
「あ、ううん、そうじゃなくて。・・・どこ行くの?」
「あそこ。飯もうまいし、落ち着いて話せる店なんだ。」
紘が数メートル先にあるお店を嬉しそうに指差した。
そこは、見るからに高そうな小洒落た感じのカフェだった。
「唐揚げじゃないんだ。」
思わず含み笑いで言う私に、紘が拗ねたような顔をする。
「女の子連れて行く店くらい弁えてるよ。俺だって子供じゃねぇんだから」
なんだろう、今私の目の前にいる紘は、私が好きだったあの頃の下野紘だ。
大人気声優として、テレビに引っ張りだこになってるあの『下野紘』とは違う。
どこか幼い、弟のように頼りなげで、それでいてどこか頼もしい、不思議な魅力を持った男の子。
本当に変わっていない。
私は嬉しくてこみ上げる笑いを必死でこらえながら、紘の後に続いて店内に足を踏み入れた。