第1章 -1-
「先輩?どこ行くんすか?」
紘の困惑したような声を聞きながら、あまり人気のない店の隅まで彼を引っ張って行った。
「・・・なんであんなところにいるのよ?バレたらやばいとか思わないの?有名人のくせに・・・」
振り返りざまに文句を言う私に、紘はきょとんとした顔をした後、笑い出した。
「大丈夫、誰も見てないよ。顔だってマスクで隠れてるし、バレないって」
「・・・あんたさ、自分がどれだけ人気者かわかってないでしょ。」
「まさき先輩は・・・俺がどんだけ人気者か知っててくれてるんだ?」
紘がいたずらっ子っぽい表情で私を見る。
しまった、墓穴を掘った。
こいつに・・・・私が「しもガール」であるなんてこと・・・絶対知られたくないのに。
「・・・で?何してんの?こんなところで」
「ん〜、別に、ただ時間潰しってゆーか・・・つか、先輩、久しぶりに会ったのに、いきなり説教しないでよ」
「・・・そーだね、ごめん。びっくりして・・・。元気だった?もう、何年ぶりだろうね」
紘が口を尖らせて言うその言葉に、素直に謝罪を口にする。
「先輩こそ、元気だった?もう、10年近く会ってなかったよね。演劇部の同窓会とかも、もうやらなくなっちゃったしなぁ」
紘が懐かしそうに目を細めて微笑みながら私を見る。
「まさき先輩、お昼食べた?まだなら、一緒に行かない?俺、もうちょっと先輩と話したいんだけど。」
「え、うん、いいけど」
「よし、決まり」
私の返事に、マスクの上からでもわかるくらいの笑顔をその顔に浮かべて、
「行こう」
私を促して歩き出した。
慌てて彼に追いすがりながら、高校時代の淡い恋心が胸を満たして行く感覚に酔いそうだった。