第1章 -1-
とある休日の昼下がり。
私は大手リサイクルショップにいた。
特にこれが欲しいと言うものがあるわけではなく、ただただ店内を歩き回り物色を続ける。
古本、CD、DVDなどのコーナーに来て足を止めた。
ある名前が目に飛び込んできたからだ。
『下野紘』
棚にデカデカと記されていて、その先には彼が出したであろうCDやDVD・Blurayなどがたくさん並んでいた。
私は引き寄せられるようにその棚に歩み寄り、CDを一枚引っ張り出して見た。
そこには『大人気声優下野紘』がかっこよくポーズを決めて写っていた。
「かっこよくなっちゃったなぁ・・・」
そのCDのジャケットを指でなぞりながら思わず呟いた。
下野紘、は、高校の後輩だった。
同じ演劇部に所属し、ほんのわずかな間付き合っていた、言わば元彼、だった。
CDをそっと棚に戻した時。
「・・・まさき先輩?」
今脳内に思い描いていた人の声がすぐそばで響き、びっくりして振り返った。
「あ、やっぱり。久しぶり、元気でした?」
そこには、メガネにマスクで顔が半分隠れていても彼と一瞬でわかる、あの笑顔をその顔に浮かべて、大人気声優、下野紘その人が立っていた。
「!?」
びっくりして言葉が出てこない。
何かを言おうとして口を開き、言葉を探せずにまた無言のまま口を閉じる。
それを何度か繰り返した後、首を傾げて私の言葉を待っている彼の後ろで、女の子がチラチラとこちらを伺っていることに気づき、私は紘の腕を掴むと多少強引にその場から離れた。