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信仰の果て[ゴールデンカムイ]

第2章 跡には虫も声たてず



鶴見はふっと息を吐き出す。
八重の体に力が入った。


「か、神は、どのような人間でも自分のように愛しなさいと仰っています。隣人愛というものです」

「あぁ。知っているよ」

「私が看護婦になろうと決意したのも、その教えがあったからです」

「あぁ。君の決意は素晴らしいものだ」


八重は視線を自分の茶碗へ落とした。


「なので、鶴見さんの問いにお答えすることはできません」


陸軍の中尉に「人殺しはダメだ」と言っても意味の無いことだとは理解している。
軍がなければ戦争に勝てないこともわかっている。
だが、それでも、八重は口を閉ざすことを選択した。


「……ならば、質問を変えよう」


呆れられてしまうかと身構えていた八重の耳に、意外にも優しい鶴見の声が聞こえてきた。

恐る恐る、彼の顔を見る。
彼はいつものような優しい微笑みを浮かべていた。


「君の言う神はどのようにして信者を増やしていったのかな?」


どのように?
神が、どのように……。

その問いの答えは1つしかない。

今度は迷いなく、八重は答えた。


「愛です」


にんまりと、鶴見の口が弧を描く。
初めて見る笑い方。ぞっ、と背筋に寒気が走った。


「そうだ。愛だ」


イエスは愛を心から抱いていた。
どのような人間にも愛を与え、裏切られたとしてもその者を許した。それどころか人間の罪を背負い、死んだ。

それを愛と呼ばずして、なんと呼ぶ。

そんなイエスだからこそ、人々は彼を信じ、敬った。


「私が部下に愛を与え、その愛で私に忠実な戦友となるのだ」


八重は黙って鶴見を見つめ続けた。


「いわば、鶴見劇場ですか」


ぽつりと呟いた八重に、鶴見は深く頷く。
彼は再び箸を取った。


「素晴らしい名前だな」


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