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信仰の果て[ゴールデンカムイ]

第2章 跡には虫も声たてず



「月島さん?」


声をかけられて、月島は顔を上げた。


「八重さん」


兵士の治療にあたっていたのか、汚れた包帯や血を吸った軍服を抱えた八重がそこにいた。
ちょうどテントから出てきたところで遭遇してしまった。

月島は咄嗟に中途半端な笑みを彼女に向ける。


「……歩けるまで、回復されたんですね」


その笑みについて何も聞かず、八重は世間話のように言った。
そのことに安堵しながら、月島は彼女の持つ荷物を半分持った。


「あ、いいですよ、これくらい何ともないですし。月島さんは負傷兵なんですから」

「何かしないと落ち着かなくて」


八重は困ったように眉毛を下げて、「ありがとうございます」と口にした。


「お陰様で、傷もだいぶ良くなりました」


洗濯場へ足を動かしながら、月島は世間話に乗ることにした。

今も、遠くで戦争は続いている。
硝煙のにおいはすっかり服に慣れてしまったし、微かに砲弾の音も聞こえてくる。


「でも痕を残してしまいました……」


申し訳なさそうにする八重に、月島は首を横に振った。


「男に傷は武勲の印ですよ」

「そう言っていただけるとありがたいです」


何かを避けるように言葉を続けていた八重だったが、やがて堪えきれなくなったのか、意を結したように月島を見上げた。


「顔色がよろしくありません。何か、鶴見中尉殿と何かあったのですか?」


八重と会ったとき、月島は鶴見のいるテントから出てきていた。
自分でもわかるほど正気のない顔をしていた。

八重の問いかけに、なんと答えるべきか悩む。
彼女は鶴見の義娘である。そんな彼女に「お前の養父は人の気持ちを自分のために利用する男だ」と伝えるのか?


「……いえ。ただ、今後のことについてお話しただけですよ」


彼女にそんなことはできない。
月島は薄く笑ってそう答えた。


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