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【呪術廻戦】撫子に口付けを【短編集】

第11章 【五条/シリアス】最愛のあなたへ


最強であるために、五条家の象徴として育てられたあなたは、何処かが欠如していた。

だから、その欠けたところを埋めてあげることができたら良いな、なんて自惚れていた。


「ねぇ、悟。強い人と……宿儺と戦えて楽しかった?」 


敢えて、幸せだったかは聞かない。きっと答えは分かっているもの。


「私、悟が満足したなら良いの」


彼は何も言わない代わりに、私を抱きしめてくれた。



そこで覚醒した。



また同じ夢を見てしまったようだ。何度目だろうか。数えるのも止めた。

今日も新しい朝が来て、窓から差し込む陽光が部屋を照らす。でも、悟はもう隣にいない。冷たいベッドに私は一人きり。あの日から、私は独りになってしまった。

夢の中で夢を何度も見るなんて、重症だと他人は言うだろう。この世に居ない人のことを考える時間が、こんなにも胸が張り裂けそうで、心を握り潰されそうな痛みを伴うなんて、知らなかった。

彼の体温を今でも思い出せる。

あの温もりは幻なんかじゃない。きっと、私の中だけで永久に生きているだろう。

ふと視線をずらせば、彼からではなく家入さんづてに渡されたモノが、痩せた薬指に嵌っている。

なにが “大好きな君へ”だ。

死んでから永遠なんて誓わないで欲しい。


柄にもない誓いの証と、それに刻まれた言葉を遺されて、もう新しい恋なんて出来そうもない。もう涙は出ない。きっと枯れてしまったんだと思う。



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