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【呪術廻戦】撫子に口付けを【短編集】

第11章 【五条/シリアス】最愛のあなたへ


いや、本当は解っている。

でも、もう何も考えたくない。

ただただ、この幸せな時間に溺れていたかった。

それから私たちは何度も唇を重ねた。

「悟」と名前を呼べば、彼は愛おしそうにこちらを見つめる。

その瞳の中に映る自分の姿を見た瞬間、涙が溢れそうになった。


「私も……好き、だよ……」


私は彼の首に腕を回すと耳元で囁いた。


「まだ……嫌……」


私が駄々をこねると、彼は困ったように笑う。


「また何処かで会えるよ」


彼は優しく私の頰に手で添えた。

まるで壊れものでも触れるかのように、そっと優しく包み込むようにして撫でられる。

もう時間が無いのだと悟った瞬間だった。


「ね、悟……私は連れていってくれないの」


震えて力が入らない手で、悟の手に自分の手を重ねた。彼は悲しげな目で私を見ているだけだった。

私はゆっくりと深呼吸をすると、小さな声で言った。


「本当はこのまま二人で居たいけど、それは出来ないって知ってるよ」


悟のいない世界なんてけれど、生きていても辛いけれど、残された者は生きなくてはいけない現実を解っている。

あなたの生徒さんなら任せて、と。

私が泣き笑うと、悟の目が大きく見開かれた。

その瞳には涙が浮かんでいるようにも見えるけれど、彼の目から流れ落ちることはない。


「ゆめは強いね」


悟は静かにそう言うと、私の髪を愛おしそうに撫でた後に微笑んだけれど、まるで無理に笑おうとしているような、ぎこちない表情だった。


悟、あなたが好きだった。


何でも完璧にこなして、戦闘でも負け知らず。

でも、どこか孤独で、人よりも優れた才能を持ったせいで誰も隣に立てる人がいなくて、ずっと寂しそうだったあなた。

あなたに好きだと言われた時、


『悟の心の穴は私が埋めることは出来る?』


と聞いたら、


『分からない。でも、ゆめはゆめでしょ。何かにならなくて良い』


って言ってくれたから、私は嬉しくて嬉しくて幸せだった。



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