第10章 【五条/シリアス】大好きな君へ
緊張で震える手で彼女の頬に触れて、拒否されていないことを確認してから、そのままゆめの顎を指で上げる。
今度は逸らされない綺麗な瞳に、僕だけが映っているのが見えて少し安心する。
重なる視線と口付け、そして伝わる温もりに胸が満たされる。
僕への答えは、キスの後に聞くことができた。
「いいよ」と、消え入りそうな程に弱々しいゆめの声が、僕の名前を呼んで応えた。
でも、目の前の彼女は両手を顔で覆いながら下を向いてしまったので、残念ながらその表情は見えなかったけど。
「うわぁ……どうしよう、悟のことマトモに見れない」
蚊の鳴くような声と、そんな真っ赤な耳で言われたら、この先の僕はもう我慢出来そうもない。
「えー、そんなこと言わずに顔見せてよ」
「やだっ」
そう突っぱねる両手を、自分の両手で包み込むように握って、ゆめの顔を上から覗き込む。
恥ずかしそうに、チラチラと僕を見ている瞳と目が合った。
「ははっ、嫌ならビンタしなって」
そう言って頬に口付けても拒否するような素振りはなかったし、僕の腕の中で彼女は少しだけ笑っていたから、嬉しすぎて心の奥のやわらかい部分が蕩けていくようだった。
このまま時が止まればいいなんて、そんならしくないことを思ってしまったんだ。
あの日のことは、きっと生涯忘れないと思う。
初めて、金も権力も絡まない恋愛が出来た。
ゆめは、わざとらしくしなだれかかってきたり、猫撫で声で僕に媚びることもない。
ありのままで接することが出来て、正直、その遠慮のない距離感も心地よかった。
「んっ、さと……る」
キスで唇が離れて、ゆめが名残惜しそうに小さく僕の名前を呼んだ。
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