第10章 【五条/シリアス】大好きな君へ
鼻先をくっつけたままで互いの視線が絡むと、その涙で濡れた瞳に吸い込まれるように、また唇を重ねる。
そして、今度はそっと舌を入れてみた。
「ん」
一瞬身体がビクッと反応したけどそれ以上の抵抗が見られず、角度を何度も変えて味わうような深い口付けを繰り返す。
やわらかくて、甘くて、癖になる。そんな恍惚とした気分で、僕はゆめを抱き寄せて夢中で口付けを繰り返した。
「……ふっ、ん……っ、んん……」
息をしようと口を開いた彼女の口内に、すかさず舌を差し入れてゆめの舌も無理やり絡めたら、苦しそうに声を漏らしながら僕の服をギュッと掴んでくる。
だから、その手を上から握ってあげると、安心したのか僕の背に腕を回してきた。
「……はぁ、幸せすぎ」
キスの合間にそう呟くと、息の上がった彼女が僕にしがみつくように抱きついてきて、それは「私も」という同意に取れた。
嬉しくて仕方なくて、調子に乗って、そのまま鼻先で彼女の髪を除け、その白い首筋に唇を這わせて愛撫する。
「あっ……ちょっ、悟……」
汗ばんだ首に軽く歯を立てたら、切羽詰まった声が耳を刺激してきて、益々僕は興奮した。
ゆめの全部を自分のものにして、貪り尽くしたいという乱暴な欲さえ湧き上がる。
「……色情魔」
彼女が吐息と共に漏らした悪口さえも、甘ったるい響きを帯びていて、心地良かった。
今世紀最大級に必死こいて口説き落として、共に同じベッドで朝を迎えて、それでも何か物足りなくて、ゆめを困らせたな。
毎日が楽しくて、明日が来るのが愛しいなんて、抱いたことない感情で、僕の日常に明かりが灯ったようだった。
そういえば、厄介事を片付けたら渡そうと思っていた、将来の誓いの証。
社員寮の自室の引き出しに入れっぱなしだったけれど、それを見て君はまた泣くんだろうか。
“大好きな君へ”
指輪に刻まれた柄にもないメッセージは、あの子にとっては呪いになってしまうかもしれない。
それでも僕は――
「や」
次の瞬間、目の前に現れた親友に呆気に取られたが、自然と口角が上がる。
「うっわ、ざけんな最悪だよ」
END.