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【呪術廻戦】撫子に口付けを【短編集】

第10章 【五条/シリアス】大好きな君へ



「だから、私の好きなところってどこ? 全部は無し。ちゃーんと答えられたら、私も応えてあげる」


そうゆめに言われて僕は言葉に窮した。

だって、君の嫌いなところなんてないし、どこもかしこも好きで仕方がない。


「指標だよ」

「……え? なんて?」


聞き返された僕の一言に、さらに困惑しているゆめを見ながら、また言葉を選び直す。


「ゆめがいると、世界がよく見える。僕が、僕でいられる目印なんだ」


それは嘘偽りのない本心で、僕の中の君の存在はどんどん大きくなる一方だった。

周囲が僕を“最強”であることを求めた。

終わりがない。目の前の景色が色褪せて、何かの境界がぼやけるような日々。

命の危機を感じるような敵も相手も存在せず、ただ退屈と侘しさが蝕む、人生という孤独な戦い。

そんな中で出会った君の存在は、夏の夜空の流れ星のように煌めいて見えた。


「ゆめは、違う世界をくれる」


自分の鼓動がこんなに速く脈打つことも、君の笑顔を見た時の胸の嬉しい騒めきも、全部、全部、君から教えてもらった。

他のものは要らない。君だけは、どうしても欲しいんだ。


「僕は、ゆめと一緒なら心を見失わない」


君が見ている世界と、僕の世界が交わって同じ景色を見ていけるなら、何も怖くはない。

「だから、ゆめの隣に居ていい権利を僕にちょうだい?」


そんな風に聞いたとき、君は困ったように眉を寄せて笑うんだ。

YESかNOか君が口走る前に、その柔らかな唇を指でなぞると、君は顔を赤らめて視線を逸らした。

唇に触れた指先から伝う君の熱が、僕の心まで揺らす。


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