第9章 【乙骨/ほのぼの甘】幼い君の大きな愛(乙骨視点)
二人とも無言になってしまう。謝らなければいけないのは僕の方だから、先に口を開く。
「ごめんね、ゆめちゃん。本当に申し訳ないと思って……」
「違うの」
「え?」
ゆめちゃんの言葉の意味が分からず困惑していると、彼女は意を決したように顔を上げた。
その瞳にはうっすら涙の膜が張っていた。
「憂太のことを避けてたのは、憂太のせいじゃなくて……」
そこまで言ったところで、彼女の言葉は途切れた。ぽろりと零れた雫が、頬を伝っていく。
ゆめちゃんは震えた声で僕の名を呼ぶと、勢いよく飛びついてきた。そのままぎゅっと抱きしめられる。
「え、ちょっ……ゆめちゃん!?」
突然の出来事に慌てる。ゆめちゃんは構わず続けた。
「私、前から憂太が好きだったの」
耳元で囁かれた告白に、頭が真っ白になる。好きって聞こえたような気がして、自分の耳を疑った。
「え、えぇっ……ゆめちゃん……?」
僕が心底驚いていると、ゆめちゃんは少し身体を離して、真っ直ぐこちらを見つめてくる。
「好きなの、ずっと一緒にいたい」
彼女は僕の手を取ると、そっと指先を絡めて握ってきた。柔らかくて、僕よりも少し小さな手が触れて、胸がドキドキしてくる。
これは両想いだと自惚れてもいいのだろうか。
「昨日、ゆめちゃんが子供の姿になった時の記憶はないんだよね?」
「記憶は無いけど、憂太のことを好きな気持ちが、子供の素直な思考で爆発したんだと思う。一緒にご飯食べたいな……とか、ぎゅっと抱き締めてほしいな……とか……全部」
言う通りなら、ホッペにチュウとか、僕の匂い嗅いでたりとか、結婚したいとか、ゆめちゃんの願望が浮き出たということか。
もう完全に相思相愛じゃないか。急激に耳が熱くなるのを自覚しながら、握っている彼女の手を優しく握り直す。
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