第8章 【乙骨/甘】微熱
ごめんごめんと申し訳なさそうに謝る憂太を見て少しだけ胸が痛む。
本当は可愛らしいものに囲まれて過ごす時間が好きだったりするのだが、小学生でもあるまいし、彼にそんな子供っぽい一面を見せるわけにはいかない。
大きなぬいぐるみの類は実家に送ってしまった。
ソファを指差して座るよう促すと、憂太は素直に従って腰掛けた。
2人分のコーヒーを淹れて、隣に座って彼の顔を見ると、いつもより血色が良いように思える。
何気なく手に触れると、やっぱりいつもより体温が高い気がする。もしかして、風邪でもひいているのではないだろうか。
「憂太、大丈夫?顔赤いし、体調悪いなら無理しなくても……」
「違うよ、全然平気だから気にしないで!むしろ元気だよ?ほらこの通り!」
空元気で大袈裟に腕を振り回す憂太の様子は明らかにおかしかった。
「ちょっとごめんね」
憂太の腕を降ろさせて、額に手を当てた。
熱はないみたいだが、やはり体温が高いような気がする。
「やっぱり熱いよ。具合悪いんじゃないの?」
「……実は朝から頭がフラフラしてたんだ」
「えぇっ、それなのに私に付き合ってくれたの?」
「ゆめちゃんと一緒だと楽しいからさ。それにせっかくのデートなんだから、最後まで一緒にいたかったんだ」
申し訳なさそうに笑い、困ったような表情の憂太の言葉を聞いて、私は思わず俯いて顔を手で覆った。
一緒にいたい、と言われて嬉しくない女子はいないだろう。
私ばっかりドキドキさせられてずるい。
憂太はこういうことをさらっと言える人だ。
素直に彼自身の気持ちを伝えてくれるから、私もつられて素直な気持ちになる。
でも今日は、体調が悪い時くらいは、ちゃんと休んでほしい。
「でも、憂太……風邪なら、早く寝ないと治らないよ?今夜はベッド貸してあげるから、寝てよ」
「え、そしたらゆめちゃんソファで寝ることになるよ」
「私は構わないよ、憂太のことが心配だもん」
私のしつこいくらいの説得に、渋々といった様子だったが、憂太は大人しくベッドに横になった。
幸いにも彼はラフな格好で来てくれていたので、寝るときにも特に問題はなさそうだ。
「じゃあお休み、ゆめちゃん」
「あ、あのさ……憂太……」
→