第8章 【乙骨/甘】微熱
顔は火照っているし足取りだって覚束無い。
こんな状態で電車に乗って寮まで帰れるか不安になるほどだった。
それでも、ケーキを受け取り、どうにかこうにか最終的には2人で寮に辿り着くころには、その熱も甘くて心地好くて、もう少し憂太と一緒にいたくなるから不思議だ。
「憂太、今日……泊まっていかない?」
緊張しながらも、あくまで自然体を装って聞いた。
変なことを言ったんじゃないかとか、断られたらどうしようとか、いろんな考えが頭の中をぐるぐる回る。
だけど憂太は何も答えずに黙ったままこちらを見つめていた。
「だめ……?」
恐る恐る尋ねると、彼は静かに首を横に振った。
「いいよ、僕もゆめちゃんと一緒にいたいなって、思ってたから」
「え、いいの?本当に?」
「うん」
「ありがとう、嬉しい」
嬉しくて飛び跳ねたい気分だ。憂太の気が変わらないうちに急がないと。
「じゃあ着替えたりして準備できたら連絡するね」
「うん」
笑顔で手を振って、一度各々の部屋に戻る。
とりあえずシャワーを浴びようと思って浴室に入ると、そこでやっと冷静になった。
勢いで誘ってしまったけど、よく考えたらこれはかなり大胆な発言だったんじゃないだろうか。
しかもクリスマスに泊まりに来ないかなんて。
「うわぁ……っ」
恥ずかしすぎて悶絶する。
こんなはずではなかった。もっと可愛くスマートに誘うつもりだったのに、どうしてこんなことになってしまったのか。
「よし、とりあえず自然な感じで憂太と話そう」
言ってしまった過去は巻き戻せない。
決意を新たにして風呂場を出ると、彼はどれを着たら喜んでくれるか悩みながら、可愛い部屋着たちの中から服をチョイスした。
それから小一時間後、付き合ってから初めて憂太を部屋に招き入れると、彼は興味深そうに室内を見回し始めた。
「わ、意外と片付いてるね」
「意外って何よ。憂太、失礼ね」
「いやそういう意味じゃないんだけど……なんかこう、可愛いぬいぐるみとかをいっぱい置いていそうなイメージがあったからさ」
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