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【呪術廻戦】撫子に口付けを【短編集】

第7章 【五条/シリアス】哀情-Answer-(五条視点)




――悟、悟。


誰かが僕を呼ぶ。

真っ暗闇の中でふと目が覚めると、袈裟姿の傑が寝そべる僕の顔を覗き込んでいた。


『なんて顔をしてるんだい』


からかうようにフフッと笑った親友を前に、バッと上体を起こす。

夢か、夢だよな。

だが、いつもの悪夢と展開が違っている。

唖然として口を開けたまま、傑と思われる夢の中の人物を見つめると、そいつは肩をすくめた。


『私は悟を恨んでいないよ』


発せられた言葉に、ハッとして彼を見つめた。

鼻の奥がツンとして、視界が滲んでいく。

ずっと心の底でわだかまっていた思いが、感情が、目からとめどなく溢れてくる。


『ただ、もっとお互いに話していれば、こんなに悟に心配をかけることもなかっただろうって、今になって思うんだ』


悪戯っぽい笑みを浮かべ、おどけた様子で傑から肩を叩かれる。

最強も寝不足には敵わないんだな、と冗談を言われ、こっちも「オマエのせいだろ」と、鼻声で学生の頃のように悪態をついてみせる。


『悟……礼を言うよ』
 

私に引導を渡したのが君で良かった。

その声が僕の耳に届く頃には、傑の姿が光の粒になって闇に溶けていく。

駆け寄って光を掴もうとするが、その手は虚しく空を切った。

バランスを崩して転ぶと、遠くから『ありがとう』と反響する聞こえた気がした。


「くそっ……まだまだ……オマエと話したいことがあるのに」


握りしめた拳で地面を叩き、親友の名前を力の限り叫んで身を起こすと、そこはいつもの家の寝室だった。

カーテンの隙間から朝日が射し込んでいて、鳥の鳴き声が聞こえていた。

混乱したまま静かに辺りを見回すと、ベッド脇には僕の手を握って眠りこけるゆめの姿があった。 

彼女を揺すって起こすと、


「……悟、眠れた?」


と、切羽詰まった様子で聞いてくるゆめに怯んだ。

夢を思い出そうとして、夢の中の傑の「ありがとう」が耳に蘇る。

リアル過ぎて、あれは現実にあったことなんじゃないかと疑った瞬間に、抑えきれずに声を上げて泣いた。


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