第7章 【五条/シリアス】哀情-Answer-(五条視点)
既に離れがたいと思いつつも、ゆめの髪を指で梳いていると、ふいに電話のコールがポケットから鳴り響く。
幸せな夢から無理矢理に目を醒まさせられた気分だ。
「なるべく早く帰るよ」
と、彼女に宣言して、慌ただしく建物から降りながらスマホを耳に当てる。
報告書類の訂正要請と、事件の詳細を文書化したから目を通して欲しいと電話越しに伊地知から話され、これは本当に完徹になりそうだと苦笑が洩れた。
無限を使って地面に降り立つと、丁度日の出が拝めた。寝不足の瞳にしみて、サングラスを外し、いつもの目隠し代わりの包帯を着けた。
現実、奪った傑の命ひとつでは償えないほど、犠牲になった命と、悲しみに流れた涙は多い。
それでも、生きている者たちは前に進まないといけないのだ。
だが――あれから僕は、毎晩悪夢にうなされた。
傑が最期に笑っていたのは記憶に目に焼き付いているというのに、夢の中では、傑は血だらけの目を見開き、「苦しい、痛い」「悟、助けてくれ」と訴えながら、僕に掴みかかってくる。
なぜ殺したのか、なぜお前だけ生きているのかと、苦痛に満ちた声で僕に助けを乞う。
うわっ、と小さく叫んで、思わず飛び起きる深夜。
暴れる鼓動。
額に滲む脂汗。
喉が絞られたように引きつる。
息を呑み込むと、口の中がカラカラに乾いていて、むせこんでしまった。
罪悪感が見せるのだと、もう済んだことだと、自分に言い聞かせるも、その夢の声から逃れることはできない。
――全ては僕のせいだ。
僕のせいで、親友が死んだのだ。それは、捻じ曲げようのない真実。
「あれは夢だ、夢……っ、傑がッ、そんな……ことするはず……な、い」
頭を抱えて布団の上で丸くなるも、叫び出したくてたまらない衝動を必死で堪える。
いつまでこんなことを続ければいいのか。
いっそこのまま死んでしまいたいと思った時だった。
ふわりと、安心するやわらかな香りに包まれた。
「大丈夫だよ」
耳元で囁かれた言葉とともに、背中をさすられる感触があった。
顔を上げると、そこには心配そうな表情を浮かべているゆめがいた。
彼女はベッドの上に座り込み、僕の身体を抱き寄せていた。
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