第7章 【五条/シリアス】哀情-Answer-(五条視点)
「――この世界では、私は心の底から笑えなかった」
傑が弱く吐き捨てた言葉。
その声には怒りがあった。
憎しみもあった。
悲しみさえあったかもしれない。
そして何より、深い後悔があるようだった。
自分が自分を、生きてていいと思えるように。
自分が自分のままでいてもいいのだと思えたら、きっと自分は救われるのだと思った。
だから、歪んだままの理想を追い続けた。
だから、非術師を皆殺しにしてしまおうと考えたし、実際に行動に移した。
でも、それは間違っていた。
何かを言うべきなのかとも思ったけれど、何を言っていいか分からなくて口を閉ざした。
今の“夏油傑”にかける言葉を、僕は知らない。
僕にとって傑は親友で、今も昔も大事な仲間だけど、悲しくも相手にとってはそうではなかった。
二人の間に横たわる溝の深さを思い知るようで、少しだけ寂しかった。
それでも、何年経っても、僕にとって変わらないことがある。それを伝えたい。
「オマエは僕の親友だよ、たった一人のね」
学生の頃には恥ずかしくて絶対言えなかったけれど、大人になった今なら言える。
「は……最期くらい、呪いの言葉を吐けよ」
僕の言葉に、傑は苦笑を浮かべた。
僕が何かやらかすと、「しょうがないな、悟は」と言って、困ったように笑っていた昔の時と同じ表情だ。
せめて、最期は苦しまずに逝ってほしい。
傑の額に指を添え、呪力操作で気絶させると、左胸に手を添えた。
術師の始末は呪術を使わなければならない。
力を込めた瞬間、鈍い音を立てて、生を刻む臓器が潰れ、微かに傑の体が揺れ、ツーっと口端から逆流した血が漏れた。
止まる呼吸と脈。
真冬の外気に奪われる、生きていた証の体温。
親友の亡骸の横に座り込んで、壁に背を預け、ある人物へ報告の電話をかける。
「……悟か?」
すぐに出た恩師の声に、
「学長、傑を始末した」
一言、抑揚のない声で報告を済ませた。
そうか、とあちらからも短い返事が返ってきて、少し沈黙が生まれた。
電話の向こうから微かに鼻をすする音が聞こえた。
当たり前か、自分の教え子が教え子を殺したんだ、学長も思うところはあるだろう。
しかも学生の頃の僕と傑を知っている数少ない人だ。
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