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【呪術廻戦】撫子に口付けを【短編集】

第7章 【五条/シリアス】哀情-Answer-(五条視点)



見まごうことなき親友の影。

煙を吸わないようにと、憂太を移動させて寝かせると、腹を括り、決着をつけるために歩き出す。

ザッザッと瓦礫の上を早足で歩きながら、この百鬼夜行の結末がまざまざと予想出来る。

この爆発の規模から、巻き込まれていれば、まず動くのがやっとのくらいの怪我を負っているはずだ。

やがて、事態の収集のために上層部が動くだろう。

そうなれば、傑は補縛され、中途半端に生かされて繰り返し拷問を受ける。

活動拠点の本丸や他の呪詛師の居場所はどこか吐けとひどい仕打ちを受けた後に、僕の知らない所で処刑されるのは分かり切っている。


僕が傑を庇おうものなら、共犯者にされる。


「……ここまで、か」


もはや、傑を生かすための手立てがない。
四面楚歌だ。もう、アイツを庇えない。


「もっと早くにどうにか……いや、それは愚問か」


小さなほつれが大きな穴となって、人生の綻びが生まれた。

いつだって、ああすれば、こうすれば良かったと、人は後悔する。

それが必ずしも現状よりも幸せな結末を連れてくるとは限らないのに、いつだって最善の一手を探っている。


親友の歩調よりも早く歩みを進め、口から飛び出しそうな心臓を鎮めるように、息を呑み込む。

乱暴に刻む心音に追い立てられるが如く、走り出していた。

あと、10m先ほどに距離が縮まった瞬間、一度歩みを止める。


これが最期なら、アイツの死に様をしっかり見ておきたい。

目元の包帯をポケットに突っ込み、気配を隠しもせずに満身創痍の親友に近付く。


「……遅かったじゃないか、悟」


壁に凭れて、ボロ雑巾のような有様で、傑は自嘲の笑みを浮かべていた。

だが、その顔からは「ここまでか」と穏やかな諦観さえ感じられた。

頬を撫でる冬の黄昏時の風は冷たい。

憂太との戦いでズタズタになった袈裟から覗く欠損した腕のあたりの傷が痛々しく、今すぐにでも駆け寄ってやりたかった。

お互いの視線が合った時、これが今生の別れだと、こんな日がいつか来ると解っていたと、胸ごと引き裂かれそうな鋭い痛みでどうにかなりそうだった。

それでも、不思議と涙は出ない。


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