第1章 【五条/シリアス】哀情
私の質問に、一瞬キョトンとした後、彼は少し考えているようだった。静かな空間に長い沈黙。永遠とも思える時間の後で、一つ一つ思い出すように悟が口を開いた。
「まぁ、眠れたかな、それで……」
「うん?」
「夢の中で傑に『ありがとう』ってさ、言われて……」
「うん」
「『もっと話せばよかった』って……」
「うん」
「それで……『心配かけたね』っ、て……」
そこで彼から嗚咽が漏れた。
ボタボタ、と大量の涙の染みがシーツに広がる。ごめん、ごめん、ごめんと繰り返しながら彼は頭を抱えて震えていた。
恨まれてるんじゃないかと、自分の選択が本当に正しかったのかと、心の奥で毎晩葛藤していたのだろうか。
普段は決して泣かない男性(ひと)だ。聞いたこちらも胸が締め付けられるほど、彼の慟哭は苦しみを伴っていた。
周りが「あれは正しかった」と言っても、自分の魂が納得しなければ心の傷になってしまう。
夏油さんの死後、私の知る限りでは、悟は一度も泣いていない。
涙を流すことは、悲しいという自分の感情を受け入れること。どこを探しても親しい友人にもう二度と会えない現実。これから、悟はそれに向かい合って心の整理をつけられるはずだ。
「夏油さんも、悟のことが大切だったんだね」
ベッドに座り直して、彼の背中をさする。むせび泣く彼の姿に、心の痛みの深さを垣間見て、思わず私の視界も滲んでくる。
まだ日は昇ったばかりで朝は早い。時間が許す限り思いきり泣いていて欲しい。じゃないと貴男の心が壊れてしまうのではないかと私も心配になってしまう。自然に溢れゆく感情を制御することなんてしないで、今は素直に心の声に従って欲しい。
今日もみんなの前で彼は「最強」でいなければならないのだから。
彼が見たのは、私がかけた暗示には関係無い内容の夢だった。もしかしたら本当に悟が心配で夏油さんも出てきたのではないだろうか。実際、あれから悟はうなされることはなくなった。
落ち着いたらお墓参りを提案してみよう。夏油さんの好きだった花や色はあるのか、聞いてみよう。悟が自分を開放できるきっかけをくれてありがとうって伝えたい。
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