第1章 【五条/シリアス】哀情
――――真夜中、ふと目が覚めた。
部屋は闇に覆われている真夜中の3時頃。
手を握ったまま、隣で悟が寝息を立てていた。頬に優しく口づけすると、彼が身じろぎした拍子に重なっていた手が離れた。
眠気もあって体が少し怠いが、ベッドから降りて、眠る悟の横に椅子を持ってきて座った。
「隠し事しないでね、って前に言われてたけど……今回初めて約束破るね」
これから行うのは、禁断とも言える術式の応用だから、家入さんと夜蛾学長にも『上層部には絶対知られるな』と念を押された。
私の術式は脳の活動を抑制して催眠・鎮静の状態を強制させるもの。主に睡眠薬代わりだったり、興奮している人を落ち着かせたり、攻撃型ではない。
家入さんから言われたのは、脳の神経系を抑制する術式ならば、加減次第では暗示がかかりやすい催眠の状態まで持っていけるのではないか、ということ。
後は私が言葉で罪悪感を減らすための暗示をいくつかかける。それで悟の症状を軽減できるかもしれない。催眠療法の真似事になってしまうが、やる価値はあるだろうと提案された。
繊細な呪力操作と言葉選びが必要になる。
専門書を読み漁った付け焼き刃の実力ではまだまだ洗脳とまではいかなくとも、無意識下で自分と向き合ってもらうこと、肯定してあげることによって、ストレスで異常に脳神経が興奮して悪夢を見るような状態は緩和できるはず。
「あの時、私に笑ってて欲しいって言ってたでしょう。私も貴男には幸せでいて欲しいし、笑ってて欲しいんだ……」
だから、私にしか出来ないことをする。
悟が次に目を覚ます時には、哀しみと共存できる、幸せに満ちた世界でありますように。
心からそう願いながら、寝ている彼に手を伸ばした。
――――ゆめ
名前を呼ばれてバッと体を起こす。思わずベッドの横で眠りこけてしまった。カーテンの隙間から朝日が差し込み、外では鳥がさえずっている。
「ゆめ、なんでそこに寝てんの」
顔を上げると、心配そうに覗き込む青い瞳。
「もしかして一晩中術式発動させてた?呪力がすっからかんになってない?」
「……悟、眠れた?」
結果が気になりすぎて、食い気味に質問に質問で返してしまった。
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