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【呪術廻戦】撫子に口付けを【短編集】

第7章 【五条/シリアス】哀情-Answer-(五条視点)




「ゆめまで失ったら、僕は正気を保てるか分からない」


小さく呟きながら、その未来を想像しただけで、言葉が震えた。

声量が小さすぎて僕の言葉が聞こえてなかったのか、小動物が何も考えずに首を傾げたかのような彼女の仕草に苦笑した。

何も邪な感情のない恋人を抱き締め、無理はしないこと、怪我を極力しないことを約束させ、手を振りながら去る華奢でありながらもたくましい背中を見送った。

様々な不安を抱えたまま、百鬼夜行が開戦した。

前線に傑の呪力の気配が無い時点で胸が少しざわついたが、よく呪力が練られて研ぎ澄まされている奴が一人紛れ込んでいたのが気になった。

しかも日本人ではない呪力の流れ方。

体から立ち上る呪力の密度が違う。あれが傑の代打か。


「五条さん!報告が……」

「伊地知か、どうした?」


開戦前の最前線に滑り込むように走ってきた伊地知から乙骨憂太の血筋の調査報告を聞いて、頭の中でバラバラになっていまパズルのピースが一つずつピタリとハマるように、違和感の霧が晴れていく。


「憂太を怒らせるか何かして、無意識に里香のリミッターを外させた完全体の時に呪霊操術で取り込む気か……?」


里香は憂太の感情の動きに敏感に反応する。

じゃあ、リミッターを外すトリガーはなんだ?憂太が限界まで感情を爆発させなければ、里香も感応しない。

憂太の大事な物を――そこまで思考が巡って、頭からサァッと血の気が引くのを感じると同時に走り出す。


「パンダ!棘!」


真希と憂太が危ない。

特に真希は、傑が嫌悪する非術者に該当する。

最悪、鉢合わせた場合に、里香取り込みの踏み台にされる可能性もある。

第一プランは高専を滅茶苦茶に破壊しながら憂太を煽ることだろうが、真希が居れば憂太の激情のスイッチを押すのは容易だ。

呼び止めたパンダと棘に僕の予想を話す。

四人が固まれば、そこそこの時間稼ぎはできるかもしれない。

何より、術師だけの世界を作ろうとしているアイツが、理由もなく若い術師をおいそれと殺すわけがない。


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