第7章 【五条/シリアス】哀情-Answer-(五条視点)
傑はいつだって理性的で真面目で、適当でいい加減な僕よりは正しい方を向いていたはずだ。
だから大丈夫だと勝手に思っていたのだ。
しかし、現実は非情だった。
僕は結局何もできなかった。
傑を止めることもできず、止めるための手段すら選べなかった。
そして今、また同じことを繰り返そうとしている。
否、今度は絶対に止めてみせる。
僕の大事な生徒や仲間達を傷つける者は何人たりとも許さない。それが例え誰であろうとも。
2017年12月24日。
新宿と京都で百鬼夜行が行われた。
出撃前の術師合同の打ち合わせで、恋人のゆめが非戦闘系なのに前線に出ると知り、彼女の腕を掴んで廊下に連れ出して、何を考えているんだと猛反対した。
当の本人は頑として譲らず、呪具もあるし危なくなったら退避するからと僕を説き伏せてくる。
「だって、悟も行くんでしょ?」
そう言って、屈託なく笑顔を見せる君に、僕は心底弱いと思う。
本当に無理はしないでくれ、と伝えて、目隠しに巻いている包帯の上から眉間を指で押さえる。
思わず溜息が洩れると、ゆめは呪具の薙刀(なぎなた)の柄の部分で地面を小気味よくカツンと鳴らして、意気揚々と胸を張った。
「悟って心配症だよね、私は大丈夫だよ」
そりゃ心配症にもなるって。
大切な人は失いたくないだろう。替えが効かないから、君の言動には尚更ハラハラさせられる。
ゆめは二級術師だ。一級呪霊が出てきたら、躊躇なく後ろへ下がって欲しいと伝えると、彼女は素直に頷いた後に思い出したように眉尻を下げた。
「学長から聞いたけど、敵側に悟の親友さんがいるんでしょ?大事な人なら殴ってでも止めてあげてよ」
同じ土台に上って、オマエは間違ってるって言ってあげられるうちに、止めてあげてほしい。
大人になってからの喧嘩は仲直りがすごく難しくて、拗らせたら一生修復が不可能になる。
そう語ったゆめは、「悟には大事な人を失って欲しくない」と呟き、曖昧に笑った。
この女性(ひと)は、心が痛くなる程に他人を思いやる。
術師としては強くはないが、精神的な強さには自分も救われた。誰かに寄り添い、一緒に泣いて、一緒に怒ることができる。独りではないと、この女性に巡り会えて、初めてそう思えた。
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