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【呪術廻戦】撫子に口付けを【短編集】

第6章 【パンダ/ほのぼの甘】依依恋恋



手を握ると体温は感じられないお人形さんの手だけど、私はあの手が大好きだ。私を励ましてくれる、安心する大きな手。

誰かを心配したり、思いやったり、感謝したり、労ったり……人に接する時の大事なあったかい心を持っていると感じるから、こっちも幸せになる。

私が落ち込んでいると、冗談を飛ばして笑わせてくれたり、彼に救われたことも多い。

お店の内外で、困っている人を助けてあげる姿を何度も見ている。

だから、お店の常連さんたちは余計なことを聞かずに私たちを見守ってくれている。近所の人たちもパンダくんが大好きなのだ。


「私はパンダくんの心を好きになりました。彼にいっぱい幸せをもらったので、私も手芸屋を通して誰かを幸せにできたらいいなって思ってます」


照れながら胸の前で手をモジモジさせて話すと、ため息交じりの小さい声で「なるほど」と向かい側から聞こえてきた。思わず顔を上げると、


「真希と棘からは聞いていたが、うちの息子にはもったいないくらいのお嬢さんだ」


穏やかな目をしてこちらを見るその夜蛾さんの表情は、一人の父親の顔をしている。
彼は湯呑のお茶に口をつけながら、心情を吐露し始める。


「夢野さん、人間の男と恋愛するのとはワケが違う。君の親御さんの気持ちを考えた時、私としては反対すべきだと思った」


呪骸は世間的に見て人形であり、紛うことなき「物」だ。将来的に物と結婚は出来ないし、子供も望めない。

本人たちは幸せでも、世間から見れば異常で、完全にマイノリティな恋愛指向。世間的に風当たりが厳しくなる可能性もある。


「だが、現実問題、私はパンダより先に老いて死ぬだろう。それでなくても呪術師は常に死と隣り合わせだ。明日はどうなるか分からん」


遠い目をして、夜蛾さんは再びサングラスをかけた。

パンダくんもいつの間にか私の隣に座っていて、複雑な表情をしながら、黙って夜蛾さんの話に耳を傾けている。落ち着かないのか、彼も手先を無意識にいじっていた。


「私が死ねば、コイツは独りになってしまうが……君のようなお嬢さんがそばにいるなら安心だ」


そう言ってくれた夜蛾さんのサングラス越しの目が優しく細められる。


「どうか息子をよろしくお願いします」


目を伏せ、静かに頭を下げた一人の父親を前に、私は涙が出そうになった。



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