第1章 【五条/シリアス】哀情
最近は眠れてないようであると伝えると、悲しそうに乙骨くんの眉がハの字になる。
「やっぱり……」
あの日、悟が親友を殺めたことを、乙骨くんは知っている。
夏油さんが乙骨くんと里香ちゃんを狙って高専を襲撃したと、乙骨くん自身は思っていたが、悟はそれを否定した。
何かしら理由をつけて来て高専を制圧しただろうって。それだけ夏油さんにとって、ここは重要な場所なのだと。
彼の基礎を作った場を手中に収めて破壊するプロセスが大事なんだろう。なんとなく分かる。そうしないといつまでも過去に囚われて、古い自分と決別できない気がする感じ。
「いつもと五条先生の様子が違うんです。冗談も全然言わないで真面目だし、いつもより情報が正確だし……」
「んん?乙骨くん?」
彼はナチュラル煽リストか。
でも確かにね、と私も思ってしまう節がある。何をするにしても余裕がないのだ。
朝起きるときは出勤ギリギリだし、話しかけても上の空だし、お風呂入る時間も遅くなったし、私のこと抱きまくらと同じ位に腕でガッツリホールドして寝るから苦しいし、悟への色々な不満が思い返されて少し胸がもやっとした。
そこで、視界の端に捉えた異変に失笑が漏れる。
「みんなが心配してるって伝えておくよ」
私がそう言うと、乙骨くんが首を傾げた。
黙ってチョイチョイと指で彼の後ろを指差すと、
「パンダがでかいから気づかれただろ」
「いやいや、俺のせいか?」
「おかかー」
いつもの生徒3人組が少し遠くからこちらを覗いていた。私と乙骨くんの話を盗み聞きしてたのか。押し合い圧し合いでダマになってる3人を見ながら、
「いやいや、悟は愛されてるねー」
と、私が苦笑すると、
「はい。なんだかんだで、みんな五条先生のこと尊敬してますよ」
彼の濁りない瞳で告げられると恋人のことながら誇らしくなる。悟の生徒は立派に育ってくれてるよ。貴男の苦労を分かってくれてると思うんだけどな。
「乙骨くんも夜はちゃんと寝るんだよ」
去り際にそう伝えると、
「もう僕は大丈夫です」
彼は晴れやかな笑みを見せて手を振ってくれた。
若人と話が出来て、悩んで鬱屈とした気分が少し晴れたような気がする。さて、今日の晩ごはんは何を作ったら悟は喜ぶかな。そんなことを考えながら私も帰宅準備のために歩き始めた。
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