第6章 【パンダ/ほのぼの甘】依依恋恋
さっきから棘くん、おにぎりの具しか言っていない。でもパンダくんは理解しているようだ。何か事情があるんだろうな。
「ゆめ、こいつ狗巻棘。高専の俺の同級生。事情があっておにぎりの具しか話せない」
よろしく、と言いたげに棘くんが片手を挙げた。
私も自己紹介すると、彼は目だけでニコニコしながら「しゃけ」と言って頷いてくれる。
パンダくんがここに来た理由を棘くんに問うと、ジェスチャーとともに彼が説明を始める。
「いくら、明太子〜……高菜?」
「え、まさみちが?」
「ツナ」
「え、それマジか?」
「しゃけ、しゃけ」
私には彼らの会話がさっぱり分からん。
少し離れたところでカルパスをかじりながら2人を眺めていると、パンダくんの後ろ姿が震えている。
なんかショッキングな知らせでもあったのかとすごく気になったので、静かにそろそろと2人に近寄る。
「あー……ゆめ、スマン」
「ど、どうしたのパンダくん」
ガックリと床に座り込んだパンダくんに、思わず棘くんの方を見ると「ツ、ツナツナ……」と呟きながら視線が泳いでいる。
「まさみちから呼び出しだ」
任務か何かか問うと、棘くんは首を振りながら、
「おかか」
と答えてくれたので、おかかはNOの意味だと理解した。
「まさみちが、ゆめと話をしたいらしい」
狼狽したパンダくんが頭を抱えて伝えてきた事実に、私の手から抱えていたカルパスの箱がポロリと床に落ちた。
交際相手の父親からの呼び出しという想定外の出来事に、私も声にならない叫びをあげる。
母は用事で夜まで帰って来ないので、とりあえず連絡だけ入れて、店に『急用で午後休業』の札を下げ、急いで店を施錠した。
棘くんも休日だったはずだが、このまま高専に向かっていいのか聞いてみる。
頷きながらドラッグストアのビニール袋を見せてきて、「しゃけ、高菜」と言っているので、用事は済んだのだと解釈する。
パンダくんの話だと、棘くんが外出する際に学長さんに会って「2人から話を聞きたい」と伝言を預かったので現在に至る……らしい。
大人の財布の力でタクシーを拾いながら、ふと棘くんに聞いてみた。
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