第6章 【パンダ/ほのぼの甘】依依恋恋
「この間、棘……同級生と動物園に行ったんだが、俺が歩いてたらパンダが脱走したと勘違いされて騒ぎになったんだよなぁ」
「ええっ、それで?」
「推しパンダと同じ檻に入れて嬉しかったが、迎えに来たまさみちに激怒されたっていう出来事があった」
「はぁー……すごい体験してるね」
パンダくんの話を聞きながら、もはやどこからツッコミを入れたら良いか分からなくなった。
それからそこの動物園は出禁だから、県外の動物園しか行けないのだとパンダくんが遠い目をして語っていた。
「な、なんかゴメン……今度、学長さんから許可もらえたら県外の動物園行ってみよ?」
シュン、と落ち込んで溜め息を洩らすパンダくんを励ますように、毛に覆われた手を開かせて追加のカルパスを握らせる。
そのまま、ギュッと私が両手で彼の手を握ると、優しく握り返してくれた。
「混乱回避のために、まさみちっていう保護者同伴で動物園行くことになるな」
デートは出来ないぞ、と彼が茶化して笑う。
「その時は学長さんに正式に挨拶するよ。パンダくんがいるなら、私はどこに行っても楽しいもの」
えへへ、と照れ隠しに私が笑うと、パンダくんが空いたもう一方の手で私の腕をツンツンと突付いてくる。
「なになに、『息子さん下さい』ってゆめがまさみちに言うのか?」
「えっ、あ、いや、ええっ?」
「顔赤いぞーゆめ、動揺しすぎだろ」
「……っ、もう!怒るよパンダくん」
結婚の挨拶しに行くわけじゃないんだからと私が憤ると、純粋だなとパンダくんが笑った。
その時だった。
「すじこ」
店の扉の方から声が聞こえた。お客さんかと思って私が立ち上がろうとすると、
「お、棘。どうしたんだ?」
パンダくんが声の主の名前を読んだ。もしかして、一緒に動物園に行ったって話してた同級生の子かな。
口元を黒いマスクですっぽり隠したその男の子は目元だけでも美少年と分かる。
棘と呼ばれた子が近寄ってきて、私とパンダくんの繋いだ手を見て、目だけでニヤニヤと笑った。
「ツナマヨ〜」
「や、棘、これ絶対に真希に言うなよ。翌日には高専全体に知れ渡るから」
「しゃけー、いくら、こんぶ?」
「俺は少しも言ってないが……真希はもう知ってるってマジか」
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