第6章 【パンダ/ほのぼの甘】依依恋恋
パンダくんに告白したあの日から、早いもので1ヶ月以上が経ってしまった。
相変わらず私は実家の手芸屋を継ぐために、日々店主の母から商品管理や商売の心得、色々な知識を学んで頑張っていた。
パンダくんも休講などで空いた時間や休日は遊びに来てくれる。
交際を前提に友達から関係を築いているけれど、接してくれる態度は変わらぬまま、仕事で忙しい私を優しく見守ってくれる。
最近は店のマスコットキャラ的な扱いを受け、子供や御高齢の方も気軽にパンダくんに挨拶していく。
お客さんの間では、彼が人前で素顔を晒せない、極度の恥ずかしがり屋の着ぐるみお兄さんという設定が出来上がっていて、深く突っ込んでこないので助かっている。
「パンダくん、休憩しない?」
お客さんが途切れた昼下がり。
店のレジカウンターの後ろにあるデスクで、羊毛フェルトを針で刺しながら推しパンダ人形を作っている彼に声を掛ける。
東京の動物園にいる彼の推しパンダはアイドル級らしいが、私には個体同士の見分けがつかない。
私がお茶を淹れるか聞くと、「俺が淹れるぞ」と手を止めてスタッフの休憩室まで取りに行ってくれる。
「あ、今日のオヤツはカルパスだよ」
言いながら例のパンダ柄の箱を私が振ると、後ろからでも分かるほどパンダくんの耳がピクリと動いた。こちらを振り向いたので、箱を振りながら頷いてみる。
「ゆめ……緑茶だな!」
グッ、と親指を立てたのは、グッジョブ的なサインかな。好物を目にして急にテンションが上がるパンダくんも可愛い。
私は何も言ってないけど、彼のベストチョイスは緑茶なのか。
素早く緑茶を淹れた湯呑をお盆に載せて戻ってきたパンダくんに、早速カルパスを渡す。
「作業したあとのカルパスはカクベツだ」
カルパスの美味しさを噛み締めながら食すパンダくん。その様子に、用意してて良かったと緑茶を飲みながら私も微笑ましくなる。
普通のパンダは笹が大好きだが、私の目の前にいるパンダくんは笹じゃなくてカルパスがお好みらしい。
「パンダくんと動物園デート行きたいなぁ」
パンダくんの推しを是非見に行きたい。彼の心を奪うアイドルパンダをこの目でしかと見ておかねばならない。だが、そこでパンダくんの表情が曇った。
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