第5章 【五条/甘】撫子に口付けを
「ゆめ」
力尽くで強引に迫るわけでもなく、背と腰に腕を回され抱き締められた。抱き込むように引き寄せられ、悟の肩に顔を埋める形になると、嫌でも彼の匂いと体温を感じる。
そのまま耳を何度か甘噛みされながら、名前を呼ばれる。まるで恋人の名前を呼ぶように熱を帯びた声音に少し狼狽えてしまう。
私の髪に彼の髪が何度か擦れ、ゆめ、ともう一回名前を呼ばれて、腰を更に強く抱き寄せられる。
ふわっと鼻孔をかすめる彼の首元の香りで、幼なじみが大人の男性であることを改めて思い知る。この香りはウッディノートだったかな。
そういえば、悟は学生の頃はマリンノートの香水つけてたけど、ムスクはあまり好きじゃないと言っていたが今もそうなのだろうか。
包まれた腕の中があったかくて、安心する香りで、全てを預けそうになる。
「抵抗しないんだ?」
囁かれたのは、低く掠れた色っぽい声だった。微かに彼が笑った気がした。ドキドキして鼓動が早くなるのを自覚する。
彼の手でさわさわと頬を触られるのが心地好くて、このまま流されてもいいような気の迷いさえ生じる。頬から顎に指がすべる。悟に顔を上げさせられ、視線がぶつかる。
悟、私は今どんな顔をしてる?
多分、あなたに一度も見せたことない顔をしていると思う。胸が苦しくて、顔が熱い。
「ゆめ……そんな顔されると期待する」
私を見て少し驚いたような顔をした後、悟が目を細めて微笑する。
恥ずかしくて、顔を逸らそうとすると、彼の手が後頭部に回される。
逃げられないと思ったのもつかの間、彼の唇に息を奪われる。
少し抵抗して下を向いて口を閉じると、顎に指をかけられて強引に上を向かされ、下唇をやわく噛まれる。歯列を舌でなぞられると、早く開けろ、と催促されているようで、恥ずかしくて泣きそうになる。
私がまだ抵抗すると、何度もついばむように口付けされ、彼の方から戯れてくる。ちゅっ、ちゅと軽く吸い付かれるとこそばゆい。
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