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【呪術廻戦】撫子に口付けを【短編集】

第1章 【五条/シリアス】哀情




真夜中、違和感を覚えて起きると、隣で悟がうなされていた。

「ゔっ……すぐ、る……っ」

ベッドサイドに置いてあるタオルを持ってきて、ギリギリと歯を噛み締めて脂汗をかいている彼の額を優しく拭った。これでもう7日目だ。

「大丈夫、こわくないよ……」

横に座り、頭を撫でながら彼の手を握り返す。少しして眉間に寄っていた皺が消え、おだやかな寝息を立て始める。汗で湿った白い髪を撫でながら、一晩の間にそんな流れを繰り返す。

百鬼夜行で、悟が自らの手で親友の命を奪ったあの日から、夜はずっとこんな感じだ。
就寝後は1、2時間おきくらいに悟がうなされる。ひどい時には眠れなくて起きていることもある。
家入さんにも相談したけど、有効な手立てがないようだ。

日に日に目の下のくまが濃くなっていく彼に、何か私にもできることはないのかとやきもきする。当の本人に聞いても、

「ゆめが一緒に住んで、一緒に寝てくれてるだけでも充分気が楽」

と言われる始末。
悟いわく、「ただいま」って帰ってきて、「おかえり」って言ってくれる恋人がいるだけでストレス度合いが違うらしい。一緒にご飯食べて、寝る前に話をして、隣で眠るだけでも安心するから、と。

「あーもうーそうじゃないんだよー」

今日も家入さんに愚痴がてらに相談した帰り、一人で廊下の隅で頭を抱えた。
その時、後ろから名前を呼ばれた。振り返ると、悟の生徒さんの乙骨くんが気まずそうに立っていた。

「あの……ずっと独り言が聞こえていたので、夢野さん大丈夫かなって思って」

「ごめんなさい、気づかなかった」

乙骨くんから私に声をかけるのは珍しい。しかも、目が泳いでいる。聞きたいことがあります、って顔に書いてあるあたり、乙骨くんらしい。

何回か話したことがあるが、この子は優しい性格だ。自分を二の次にしても他人を尊ぶところがある。そんな子が、わざわざ私に聞きに来る内容は大体察しがつく。

「もしかして、悟のこと?」

「なんで夢野さん分かるんですか」

「いやだって、乙骨くん分かりやすいから」

「えっ」

私の指摘に衝撃受けてるあたり天然だよね、この子。憎めないところがある。呪術師やってて、心折れないかな。

「悟、いつもと様子違うでしょ?」

私が問うと、彼は黙って頷いた。


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