第5章 【五条/甘】撫子に口付けを
「いや、でも五条先生と結婚したら夢野さんは生活安泰じゃ?普通の女の子だったら喜びそうだけど」
「別に自分で働いているから生活はどうとでもなるし、私は身の丈にあった生活が送れればそれでいい。悟が私の意思を確認しないで話を進めたことだからノーカンでしょ」
「えー、なに、ゆめは結婚しないつもり?」
「うひゃあっ」
虎杖くんと会話しながら、後ろから聞こえた声に驚く。「あ、五条先生おかえりー」と挨拶する虎杖くんに手を振りながら、悟が私の二の腕をガシッと強く掴む。
「じゃあ大人の話し合いといこうか」
いつものように目隠しをしたままだから、相変わらず感情は分からない。でもその口調は静まり返った水面のように、静かで抑揚がない。
彼の手を振り払おうと力を入れるが、恐ろしいくらいビクともしない。
引き攣った私の顔を見て、虎杖くんが空気を読んでそそくさと去っていった。そのまま、引きずられるように空いている部屋へ連れ込まれる。
「……で、僕に言いたいことは?」
ドンッと大きな音に身をすくませる。
壁際に追い詰められ、私の足の間に悟が膝を入れてくる。顔のすぐ横の壁には悟の手が置かれて、スカートだから足を高く上げるわけにもいかなくて、逃げ場が無くなった。
まさか人生初の壁ドンを幼なじみにされるとは思わなかった。
「悟、今すぐ親に電話して結婚の話を取り消してよ。私は同意してない」
目隠しをしていても、背が高い悟からの圧がすごい。
負けずに睨みつけながら結婚宣言撤回の要求をすると、珍しく悟がイライラしてるのが伝わってくる。空気がピンと張り詰める。
「僕が結婚相手に求める条件ってなんだと思う?」
悟に急に質問されて、面食らってすぐに思いつかなくて考えた。
名家だから家柄?色んな人とも会話できる教養?人前で恥をかかないよう作法を身につけていること?どれにしても、庶民の私にはどれも当てはまってない。
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