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【呪術廻戦】撫子に口付けを【短編集】

第17章 【五条/婚約者ネタ】牡丹に唐獅子、波に兎




「自分の家族に確かめてみる?みーんな賛成してんだよね。だって、君が僕と結婚すれば、色々と円満解決だし」


彼の声は、相変わらず軽い。

だが、そこに込められた真実は、この現実を残酷に突きつけてくる。


「あ、ちなみに御三家が法律捻じ曲げるのなんて朝飯前だから」


サングラスを指先で持ち上げ、ニィッと笑った五条悟に、私はビンタ一発さえお見舞い出来ない。


今ここで手を出せば、不利になるのは自分だと理解している。

呪術界の頂点に立つ男。

彼を敵に回せば、私だけでなく、家族全員が——……


「僕は離婚してもいいけどさ」


五条悟は私の顔を覗き込むようにして、続けた。


「古い価値観で生きてるジジババ共はどう思うだろうね。戸籍に×がついたヤツ、『次』があるかな?」


その言葉に、振り上げた拳を下ろすこともできない。

呪術界では、御三家の人間と離婚した女性は二度と良縁に恵まれない。

最悪、親戚中から村八分状態にされる。それが不文律だった。

まして、呪術界の頂点に立つ人物から離婚された女など――。


   「なぜ、私なの」


その言葉さえ、喉の奥で詰まった。

聞いてしまえば、何か決定的なものが壊れてしまう気がした。

私は唇を噛み締め、その問いを飲み込んだ。

悔しくて悔しくて、私は五条家を飛び出し、泣きながら実家へ逃げ帰った。





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